ブランドの熟成した時を表現する酒蔵のリノベーション
散居村の風景が広がる富山・砺波平野に位置する、文久2年創業の老舗・若鶴酒造にある大正蔵のエントランス及びショップエリアのリノベーション計画。大正蔵は、その名の通り、大正11年に建築され歴史的建造物として「とやまの近代歴史遺産百選」にも登録されているランドマーク的な建物。平成25年には若鶴酒造創業150周年を記念し改修され、一般に開放されている。現在、若鶴酒造は創業家出身の稲垣貴彦氏によってウィスキー生産を行う三郎丸蒸留所の再生を果たし、多くのウィスキーファンから注目を浴びている。毎年多くの観光客の方々が蒸留所見学に訪れおり大正蔵はその見学ルートの出発点となっている。今回、その見学動線の整理に合わせて三郎丸ウィスキーの世界観をより感じてもらえるようリノベーション計画を考えた。
もともと日本酒作りが行われていた大正蔵は、瓦の大屋根や漆喰壁等の職人の手仕事が残る歴史ある建物であり、今回新たにエントランスを増築するにあたり、もともとの建物との調和を考慮しつつ、ウィスキー事業という新たな若鶴酒造としての柱となる将来性を表現できないかと考え「熟成する空間」をコンセプトに、ありのままの素材で素直に空間構成することで、時間の経過を愛でられる、まさしくウィスキーが樽の中で熟成される過程を建築として表現することを試みた。エントランスは、無機質になりやすいコンクリートの表面に杉板型枠工法という手法を用いて、杉の浮造り木目を転写することで杉樽にも似た表情をつくり外壁との調和を図っっている。また、その柔らかな曲線は、内部のカウンターにも一筆書きとして続いており、カウンターや什器の主材料としてウィスキー樽を製造する際に端材として出てしまうミズナラ材を、再加工・使用することでサステナブルな取り組みを先進的に行う三郎丸蒸留所の世界観を表すのにも寄与している。素材はあえて無塗装とすることで、時間と共に変化していく木の表情を楽しむことができる仕掛けだ。常に新たな挑戦をし続ける三郎丸蒸留所の成長と、日本のウィスキー文化の起点としてこれからも熟成(発展)していくことを願っている。(山川智嗣/CORARE ARTISANS JAPAN)
「若鶴大正蔵」
所在地:富山県砺波市三郎丸208
オープン:2024年3月8日
設計:CORARE ARTISANS JAPAN 山川智嗣 山川さつき
床面積:990㎡
Photo:nando 大木 賢
【内外装仕様データ】
エントランス:杉板型枠コンクリート仕上げ
床:既存利用(杉板)
壁:既存利用(漆喰壁)
天井:既存利用(野地板現し)
その他:什器/側板・ミズナラ 天板・再生レザー(UP-BORN LEATHER/イビケン)
山川智嗣/CORARE ARTISANS JAPAN
建築家。コラレアルチザンジャパン代表取締役
。
富山県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。日本一の木彫刻のまち富山県南砺市井波にて「お抱え職人文化を再興する」をコンセプトに、ものづくり職人と新たな価値を創造する新しいカタチのデザイン事務所・コラレアルチザンジャパンを運営。日本初の職人に弟子入りできる宿「Bed and Craft」をプロデュースするなどクリエイティブディレクターとしても活躍している。グッドデザイン賞(岩佐十良審査員特別賞)、東京メトロ銀座線駅デザインコンペティション優秀賞等、受賞歴多数。