三井ガーデンホテル銀座築地

築地の土地性とホテルの新しい在り方を“素=しろ”をテーマに表現

 

コロナ禍は、都市生活の在り方を大きく変容させました。暮らし方、働き方、休み方等のための空間・棲み処を「素(しろ)から見つめ直す」時代がはじまっています。そんな新たな都市生活者が訪れるホテルは、どのような空間を持つべきかという問いからデザインがスタートしました。さらに、もともと埋立地というまっさらな状態からスタートした築地は、これまでに何度もその多様な土地利用を素(しろ)から始動してきた歴史があります。現在、中央卸売市場の移転後、まちは素(しろ)から再出発しようとしているタイミングにあります。そんな築地であるからこそ、日本のホテルデザイン、ガーデンホテルのデザインを素(しろ)から考え直す意義もあると考えました。
日本、東京のエレガンスを代表する銀座の街にほど近いこの築地の地で、素(しろ)を見つめなおすことからかたちづくられた空間のなか、自らのLIFE、家族や友人たちのLIFE、植物たちのLIFEが活き活きと躍動し、あるいは静かに癒されるのを感じ、お互いにそれを祝福しあえるような、このホテルがそんなドラマの舞台になることができればと全体をデザインしています。
ロビーのデザインコンセプトは「OASIS」。Stay in the Gardenの体現を目標に、賑わいある銀座・築地からゲストがここに足を踏み入れた瞬間に心身が元気で満たされるようなオアシスとなりうるようデザイン。自然光豊かなガラス張りの吹抜け空間のなかで、控えめな色づかいながら質感のある内装仕上を背景に、主役である2本のシンボルツリーをはじめ、空間全体にあふれる植物と正面に見える象徴的なアートがゲストを迎えます。カフェを楽しむ人、チェックインする人、2階のカウンターで仕事をする人、リフレッシュスペースでリラックスする人など、このロビーを訪れる人が、さまざまな人のLIFEを一望できることが、このホテルが多様な過ごし方を許容することを認識させ、それが安心感にもつながると考えて空間を構成しています。吹抜け空間から続くチェックインゾーンは、滞留空間としてメイン動線からゆるやかに区切るために、洗い出しからフローリングの床に切り替え、トランクルームを含め白い土の穴ぐらのようなイメージでデザインしています。
客室のデザインコンセプトは「LIFE COCOON」。客室は独りあるいは気の許せる人のみの空間として、「生活」のなかで心身の元気を取り戻すための「核」と位置づけています。その「核」の内部を、柔らかな繭につつまれるような、丸みのあるやさしい形と刺激のない色、さらに手触り肌触りのよいテクスチャーで構成された、ストレスを感じさせない、かつ飽きのこない滞在空間となるようデザインしています。カーテンやクッション等には「生命力」を感じさせる赤みのある色をアクセントとして採用。LIFE COCOONの象徴として、伝統工芸の有松絞の技法による「SUZUSAN」の特徴的な表情もつ球状のランプシェードを取り入れ、ゲストへさりげなく、ここがやすらぎの繭であるというメッセージを伝えています。
大浴場は「RETREAT CAVE」をコンセプトに、従来の大浴場的世界観を払拭するように、上質なSPA的要素を散りばめながら、日常とは違う温浴体験に没入できるようデザインしました。特に浴室は、地下洞窟をモチーフに、重厚感のある石積みとそこから荒々しく露出した地下岩塩をイメージした壁面で囲むことで、地下空間であることを感じさせ、それと対照的にあらゆる角が丸みを帯びているモザイクタイル張りの浴槽は洗練されたモダンな印象を感じさせます。この浴室空間では、他者と快適に温浴空間を共有できるよう、リニア型の浴槽形状やシャワーブースの配置等に工夫を凝らし従来の大浴場を進化させています。
吹き抜けに面した2階のリフレッシュスペースは、ロビーから見えることも踏まえてツリーハウスになぞらえ、「TREE HOUSE」をコンセプトにデザイン。ゲストがホテル滞在のなかで思い思いに過ごす客室以外の「居場所」として、木質材料による造作に囲まれ安心してくつろげる特別なスペースになっています。
14階のレストランのデザインコンセプトは「LIVE GARDEN」。自然の恵みである新鮮な食材を自然の力そのものである火で調理する薪焼き料理は、それを食す人のLIFEにプリミティブな活力をあたえてくれます。エントランスから入ると、はじめにゲストを迎えるのは、薪焼きの焼き台を背景とした、レストランの顔といえるオープンキッチン。客席のどこからでもそのオープンキッチンの存在を感じられるようレイアウト。内装の色彩、質感、マテリアル、照明にいたるまで、すべて薪焼き料理をライブ感とともに楽しみ尽くすためのムードづくりにフォーカスしています。炎そのもののような照明をはじめ、火の橙色と炎のゆらめきを感じさせる銅粉を配合したニュアンスのある特殊塗装壁、薪を連想させるざっくりとした古材、武骨なブラックの鉄のフレーム材、さらに鉄と炎から生まれたアートオブジェなどを取り入れました。(VACANCES Inc.ZA DESIGN Inc.

 

 

「三井ガーデンホテル銀座築地」
所在地:東京都中央区築地4丁目7-1
オープン:2024年9月30日
ディレクション:VACANCES Inc. 藤本信行
内装設計:ZA DESIGN Inc. 座間 望
協力:アートキュレーション、選書/miiro 北澤みずき
延床面積:8347.81㎡
客室数:183室
Photo:山本慶太

 

【内外装仕様データ】
〈1階ロビー〉
床:洗い出し仕上げ(ヤブ原
壁:PBt12.5下地左官コテ仕上げ(ゲーテハウス) カフェ/ケイカル板下地素焼きボーダータイル貼り(平田タイル) 柱/コッパー粉入塗装(バービッシュ
その他:什器、家具/間伐集成材(三井不動産所有材) 釉薬ボーダータイル貼り(平田タイル) スタンド照明(SUZUSAN) アート/ガラスオブジェ(trace、作家:田 聡美) フロントカウンターバック壁画(Fusion、作家:Team ASANTE/A&M) 各階EVホール・壁画作品(Growth、作家:Team ASANTE/A&M
〈2階リフレッシュスペース〉
床:タイルカーペット(東リ) オークフローリング(IOC
壁:PBt12.5下地突き板パネル(オネスト・アンド・パートナーズ
その他:特注ペンダント照明(オリバー
〈地下1階大浴場〉
床:モザイクタイル貼り(名古屋モザイク工業
壁;湿式工法磁器質大判タイル貼り(平田タイル
天井:セメントボード(アクアパネル/チヨダウーテ
〈3〜13階客室、廊下〉
床:エレベーターホール/タイルカーペットデザイン貼り(東リ) 客室/二重床メラミンフローリング(カッテーナ/ウェルビー) タイルカーペット(東リ
壁:エレベーターホール/PBt12.5下地クロス貼り 骨材入塗装の上スライド式メッシュスクリーン(i-mesh) 特注ブラケット照明(Inlighten) 客室/PBt12.5下地クロス貼り(ルノン
その他:客室/特注家具(オリバー) 特注カバー照明(SUZUSAN) 全客室アート/色彩画作品(LIFE FLOWERS 心を彩る花々、作家:内藤麻美子)
〈14階レストラン〉
床:磁器質タイル張り分け(ダイナワン) テラコッタタイル
壁:PBt12.5下地不燃古材貼り(中部メンテナンス) 磁器質タイル貼り(ダイナワン) コッパー粉入塗装(バービッシュ) オープンキッチン/吊戸メタル(Demold) 御影石天板 カラーステンレスフレーム 薪
その他:特注デザイン照明器具(HIBIKI inc.Inlighten) テーブル天板(人造大理石) 椅子(アスプルンド) アート/鉄のオブジェ(ゆらぎのもり、作家:小沢敦志/OZA METALSTUDIO)

 

 


藤本信行/VACANCES Inc.
バカンス株式会社一級建築士事務所主宰。株式会社ヴィンセント(宿泊・飲食運営会社)代表。東京理科大学工学部建築学科卒業、同大学院修了。英国立シェフィールド大学大学院修了(都市計画)。UG都市建築、都市デザインシステム(現UDS)を経て、2016年に独立。バカンス株式会社では都市・建築設計から空間ブランディング、内装・家具設計まで手掛ける。株式会社ヴィンセントは京都にて自ら企画・デザインしたカフェ/ホテルMALDA Kyotoを経営。近年の主な仕事に、JPタワー大阪オフィスサポートフロア、TOTOPA都立明治公園店、神田ポートビルなど。

 


座間 望/ZA DESIGN Inc.
ZA DESIGN Inc.主宰。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業橋本夕紀夫デザインスタジオ入社にて国内外のホテル、店舗、結婚式場などを担当し、2018年 ZA DESIGN Inc.設立。富士マリオットホテル山中湖、ラフォーレ強羅 湯の棲 綾館、リビエラ逗子マリーナクラブラウンジなどホテルや旅館、マンションの共用部・専有部など幅広い空間のデザイン提案を行う。

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