ジャングルジムは遊具だが、山であり、展望台であり、小さな家だ。あたかもそこに存在し続ける自然のようでもあり、自由にカスタマイズできる建築のようでもある。何でもかんでも用意された「いたれりつくせりな建築」はどこか息苦しい。ジャングルジムには遊具としての強度が保たれたまま、別の用途にも変化する可能性が内包されている。そんな建築をつくれないだろうかと考えている。
海沿いに建つカフェ。客席から海が見える事、内部に大きな木を植える事が要望で、カフェという用途を超えて、まちの人々が集まる場所をつくるために、何を受け入れても変わることのない強度を持つ建築を考えた。自然の中で食事を楽しめるようにガラスで開放感を持たせ、植栽で内外が連続する空間を実現した。小さなスケールが落ち着いた居場所をつくり出していて、地面より高い位置にあることで日常から距離を取り、眼前に広がる海の景色を眺めながらコーヒーや食事を楽しむことができる、この場所ならではのカフェになっている。
4枚のスラブは周辺環境や客席のつくり方、樹木の高さとの関係で導かれた高さにしている。堤防の向こうの海を臨むため、また浸水の影響を考慮しスラブを持ち上げ、人の屋根、樹木の屋根など、複数のスラブを重ねて沢山のスケールで居場所をつくっている。内部空間は外部に近づくほど天井が下がり、外部から遠くなるほど天井が上がる。内外が移動とともにあべこべになり、スラブの重なりがつくる、自然と人工のあいだ、内部と外部のあいだなど、様々なスケールの「あいだ」が、光や温度のグラデーショナルな環境をつくり出している。通常RC造として構造的に必要になる梁も壁もなく、雨風をしのぐスラブとそれを支える柱のみのシンプルなテーブル状のストラクチャーは、それぞれが独立した構成になっていて、スラブと柱は内外の境界とは無関係につくられている。また、スラブの厚みや柱のサイズは、ほぼ同じ寸法で計画し、構造的に最適化せず、普遍的な在り方を目指した。設備は持ち上げられたスラブ下にまとめられていて、隠蔽されているものはなく自由にメンテや更新ができる。つまり建築が、機能や構造に依存せずに構成されているため、用途や使い方、内外の境界の位置を自由に設定することができるのである。カフェでありながら、美術館や美容室、住宅にも転用できるような構成とし、少ないマテリアルとシンプルなスケールの操作だけで豊かな空間を目指した。構造や設備から解放され、何を受け入れても変わることのない空間の強度と使い手の生活を押し広げるしなやかさを持つ、可能性を形にした器のような建築である。(五十嵐理人/IGArchitects)
「宇品のカフェ」
所在地:広島県広島市南区宇品西
オープン:2020年1月31日
設計:IGArchitects 五十嵐理人
床面積:55.79㎡
客席数:20席
Photo:矢野紀行
【内外装仕様データ】
床:モルタル仕上げ
壁:ラワン合板染色仕上げ
天井:コンクリート打ち放し
家具:特注机 特注ソファ+特注クッション
その他:厨房機器(マルゼン)