「Cycle & Cycle 紹興世茂店」は、中国で多店舗展開する有名ベーカリーブランドCycle & Cycleの創業の店です。創業から5年を経て、彼らはこの最初の店舗をアップグレードすることで、これまで育んできた新しい考え方を顧客と共有したいと考え、リニューアルを実施しました。Cycle & Cycleは「生きとし生けるものすべての成長」からインスピレーションを得てパン作りを手掛けるブランドであり、その商品は食材そのものを超える力を内包していると感じます。我々はブランドの精神に寄り添った店づくりで「ベーカリー」という空間の枠を超え、新しい店舗が顧客のより深い共感を呼び起こせればと考えました。
空間デザインでは、パンを通して作り手の手の温度を感じることができるように、職人らしい素材を取り入れることで「空間の温度」を感じさせています。Cycle & Cycleのパンのように、「素朴な温かさと上質な心地よさをお届けできる空間にしたい」との思いから、ファサードや空間の主要な要素とし、パン窯をモデルに天然の粘土やテラコッタタイルなどの自然素材を選びました。通りに面した長いファサードは、幾何学的なアプローチで2つの素材が混ざり合い、交差するように表現され、顧客と共に成長するというブランドのコンセプトを象徴しています。また、外壁にある手描きのパンにも天然の粘土やテラコッタタイルが使われています。柔らかで愛らしいデザインを、粗めの素材で表現する。この対照的でありながら一体感のある表情が気に入っています。
一方、店内では、カタルーニャ地方の伝統的なヴォールト天井を参考に、レンガのアーチを作りました。ここでも柔らかい印象を与えるテラコッタレンガを使用しました。また、インテリアの一部にはたくさんのチーク材を用いて、パン生地が発酵する時の「呼吸」を表現しています。チーク材は、空間をより親しみやすいものにするだけでなく、チーク材自体が常に「呼吸」をして、表面の色や質感は微妙に変化していき、時間の経過とともに、生き物のように異なる魅力を見せてくれるはずです。豊かな食体験を提供すると同時に、店舗の内と外が絶えず呼吸することで、空間の内外にゆるやかで深いつながりを生み出しています。(田少寅/Nazodesign Studio)
「Cycle & Cycle 紹興世茂店」
所在地:中国浙江省紹興市範蠡路湖濱商業中心2幢 125-126号
オープン:2021年4月
設計:Nazodesign Studio 田少寅 曾煜嫻 李然 黄凱峰 張青
装飾デザイン:曾煜婷
照明:Ljus Design 石岡真紀子
Photo:廣松美佐江、宋昱明(北京・鋭景撮影)
【内外装仕様】
床:石調タイル貼り(FLORINA)
壁:モルタル下地版築風塗装
天井:既存下地テラコッタタイル貼りの上EP
什器・家具:コーヒーカウンター/天板・人造大理石
田少寅/Nazodesign Studio
2009年、建築家・高松伸の指導のもと京都大学大学院で建築設計の修士課程で学ぶ。2014年の帰国後、建築・空間デザイン事務所Nazodesignを設立。建築デザイン、インテリアデザイン、プロダクトデザインを専門としながら、ホテル、サービス・小売、ギャラリー、不動産開発、住宅、オフィス、学校などさまざまな分野のプロジェクトを手掛ける。「さまざまなプロジェクトにおいて、新しい洞察力と考え方でデザインする」ことを目指す。「シンプル」の力を信じ、シンプルかつエモーショナルな作品を作ることを心がけている。