仙台市南部の地区幹線道路沿いの角地に建つ、木造平屋の果物店兼飲食店。
周辺一帯は元々農地だったが、土地区画整理事業によって新たに住宅地が計画され、敷地はその住宅地への入口となる場所に位置している。また隣地には東側にデイサービス施設、南側に戸建住宅、西側と北側には道路を挟んで大型商業施設とガソリンスタンドが建つ、様々なスケールや用途に囲まれた環境である。
僕らがまず工夫したのは配置計画だ。多くのロードサイド店舗は、巨大な駐車場を道路側に配置し、その駐車場越しに幅広間口のファサードで受けるという構えを持つ。しかし新たな住宅地入口のランドマークとして、巨大な駐車場が前景化するのは好ましく無いと考え、敷地西側(交差点側)に歩行者広場を設けて、地域の方が自由に通り抜けられるショートカット動線として開放することにした。店舗利用者だけでなく、不特定多数の人々が店舗風景に参加することは、商業的にも悪いことではないと考えたのだ。また建物は敷地北側に寄せて配置し、店内の様子が道路から近距離で表示されるよう意図した。上述した通り、多くのロードサイド店舗は駐車場が前景化する。そしてその結果、店舗の営みは道路から遠避けられ、それをカバーするための巨大サインが設置される。ここでは、歩行者広場のパブリックな振る舞いと店内の商業的な振る舞いの前景化によって、周辺店舗との風景差異を明確につくり、配置や構え自体がサイン的に機能することを期待した。
店舗は果物店と飲食店、2つの異なる屋号が同居する少し変わった業態である。元々の施主要求は、エントランスだけを共用し、2店舗を別空間としてつくるものだったが、果物店と飲食店という異なる営みを同時に体験出来る方が商業的な競争力を発揮しやすいと考え、ワンルームでの共存を提案した。切妻屋根とその架構が店内を均等に連続する様は、2店舗の等価性と一体性を助長するものである。またその形態は、周辺環境との調和を図るものでもある。妻側の家型は、南側に続く戸建住宅群を想起させる親しみのあるスケール感を生み、平側の幅広間口は、隣地の商業施設のスケールに呼応しながら店舗としての存在感を高める。
また、サインの大きさや駐車場への誘導など、ロードサイド店舗特有の価値基準を超えて、配置計画やスケールの操作といった基本的な作法で、商業的な価値を担保しながら新たなロードサイド風景を創出したいと考えた。(大野 力/sinato)
「aoki / fruits peaks Sendai」
所在地:宮城県仙台市太白区富沢熊ノ前21-1
オープン:2018年7月
設計:sinato
設計協力:tomito architecture
構造設計:ASD
照明計画:FDS
サイン設計:エイトブランディングデザイン
家具製作:AREA
施工:芳賀沼製作
面積:建築面積/465.50㎡ 延床面積/424.98㎡
Photo:矢野紀行
【内外装仕様データ】
〈外装〉
床:アプローチ/モルタル刷毛引仕上げ 外構/インターロッキングブロック
壁:外壁/乾式工法窯業系サイディング(モエンパネル/ニチハ)の上アクリルシリコン塗装
屋根:ガルバリウム鋼板
〈内装〉
床:セラミックタイル貼り ナラ材W90(無塗装) タモ材W150(無塗装) 塩ビタイル
壁・天井:PB下地アクリルリシン塗装 AEP ビニルクロス貼り
大野 力/sinato
1976年大阪府生まれ、一級建築士。
金沢大学工学部で都市工学を学び、卒業後にフリーランスを経て2004年に株式会社シナトを設立。建築・インテリア・インスタレーションアート等、様々な規模・用途のプロジェクトを国内外で幅広くデザインし、これまでに手がけた作品は約300に上る。またその多くが世界各国で賞を受け、国際的な評価も高まっている。
2016年春には全体環境デザインを担当したJR新宿駅新南エリア(改札内外コンコース・駅前広場・商業施設NEWoMan)が完成。
京都芸術大学にて非常勤講師も務める。