表参道の賑やかなエリアから少し入り込んだ住宅街において、カウンター6席、個室4席のみのプライベート性の高い会員制寿司店のインテリアデザインの依頼を受けた。計画地は路地の行き止まりにひっそりと佇むビルの1階で、まわりを住宅に囲まれながらも全面がガラス張りとなっている。そこで、ガラス壁の奥にもう一つのファサードをつくり、ガラスの箱に閉じ込められた小さな茶室のような建物が路地から見えるようなデザインとすることにした。
五感を研ぎ澄まし、一貫ずつ丁寧に握られた寿司を愉しむため、室内は薄暗がりにして視覚からの情報を少なくし、足元からの光で空間の距離感を朦朧とぼかすことを試みた。仕上げは、墨色をテーマに、室内に立てた壁を左官で仕上げ、淡墨色(うすずみいろ)から濃墨色(こずみいろ)に墨色が変化する、ぼかしを壁面に表現した。
店内に入ってすぐに待合のスペースと玉砂利の小さな庭を設け、寿司職人の立つカウンター席のある客室には、躙り口から茶室に入っていくような空間体験を用意。白い玉砂利の庭から墨色でぼんやりと暗い空間に入る切り替わりが、食事の空間への高揚感を演出する仕掛けともなっている。
踏み石のある庭の奥の扉は個室への入口である。専用のクローク、トイレを備え、他の客と顔を合わせることがないようになっている。
小さな店でありながらも、距離感の朦朧とした、水墨画のような抽象的かつ象徴的な空間となった。(久保都島建築設計事務所)
「阡寿(せんじゅ)」
所在地:東京都渋谷区神宮前2-21-15 1階
オープン:2022年7月
経営者:阡寿
企画、キュレーション:トロン東京
設計監理:久保都島建築設計事務所
設備設計:ZO設計室
音楽監修:waltz
アート提供:tagboat
植栽、生花、盆栽監修:野の花 司
グラフィックデザイン:金ノ井 金井理明
施工:鈴健
延床面積:61.7㎡
撮影:ナカサ&パートナーズ
【内外装仕様データ】
〈エントランス・アプローチ〉
床:白玉砂利、御影石飛び石
壁:珪藻土グラデーション塗装(原田左官工業所)
天井:PB下地AEP塗装
その他:窓ガラスの上ガラスフィルム貼り(ハイグラフィカ フルオーダー、パーフェクトブラックGF1413/サンゲツ)
〈客室〉
床:既存下地タイル貼り(バサルトサビーア TL88431S/サンワカンパニー)
壁:珪藻土グラデーション塗装(原田左官工業所)
天井:PB下地AEP塗装
その他:カウンター/造作 個室テーブル/造作
〈厨房〉
床:シンダーコンクリート仕上げ
壁:PB下地化粧板貼り(セラール FKM 6400ZGD/アイカ工業)
天井:PB下地AEP塗装
久保秀朗/久保都島建築設計事務所
1982年、千葉県生まれ。2006年、東京大学工学部建築学科卒業。2006〜2007年、Sint Lucas Architectuur(Belgium)。2008年、東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2008〜2011年、吉村靖孝建築設計事務所。2011年、久保都島建築設計事務所を共同設立。
都島有美/久保都島建築設計事務所
1982年、愛知県生まれ。2006年、九州大学工学部建築学科卒業。 2006〜2007年、Sint Lucas Architectuur(Belgium)。2008年、九州大学大学院人間環境学府修了。2011年、久保都島建築設計事務所を共同設立。2008〜2011年、NAP建築設計事務所。
主な作品に 「両国湯屋江戸遊」(2019)、「HOTEL THE SCREEN Moon Phases」(2020)、石神井町の家(2017)、まるほん旅館風呂小屋(2015)など。日本建築学会作品選集 新人賞(2017)、AR AWARDS 2016 入賞、JCD DesignAward 金賞(2016)など。