ベーカリーブランドの理念を象徴するオフィス
創業から6年を経て、今や確固たるベーカリーブランドの地位を築いた「Cycle & Cycle」。その新しいオフィスを構えることは、ブランディング戦略の上でも非常に重要なことでした。新しいオフィス空間として選んだ場所は、杭州市のアート&商業のランドマーク地点「天目里」です。
現代社会における勤務スタイルは、ますます多様化しています。今や家でもカフェでも仕事をすることができ、そういう自由な勤務スタイルが、多くの人のクリエイティビティを掻き立てるに至っています。そんな今という時代におけるオフィスとはどのような空間であるべきなのか?企業とブランドにとって、新しいオフィス空間とは何を意味するのか? これらのクエスチョンは、実際に具体的な形象設計をする以前に、深い思考を要する設計テーマでもありました。
この6年間、「Cycle & Cycle」のブランドコンテンツは、バラエティを広げ続け、単なるベーカリーブランドから、パンを中心としたライフスタイルブランドへと成長を遂げてきました。手作りパンのワークショップ、ライフスタイルクッキングのワークショップなど、多元的なイベント開催にまでその輪郭を広げ、パンを通して生活の美を伝えることにより、「Cycle & Cycle」ブランドを支持するたくさんのお客様とファンを獲得しています。
リーズナブル、ハイコストパフォーマンスなどの、いわゆるオフィス空間に求められる特質の他に、私たちは「Cycle & Cycle」の新しいオフィス空間には「Cycle & Cycle」らしいイベント性と、形式にこだわらない勤務スタイルを併せ持たせたいと思考え、「Cycle & Cycle」を取り巻く従業員・お客様・ファンの皆様が、この空間の中で積極的にコミュニケーションを図り、共に成長する、あたかも一つの「Cycle & Cycle」コミュニティでありたいと考えました。
このオフィスは、大きく2つのユーティリティゾーンに分かれています。一つが従業員を主とする「CycleOffice」、もう一つが主にお客様とファンの皆様に向けた「Cycleベーカリーライフスペース」です。それぞれのゾーンには独自のエントランスがあり、互いの空間を邪魔しないようにしています。と同時に、ハードソフトの両面において2つのゾーンを完全に分割するわけではなく、間に設置したコリドー空間を通してお互いを連動させ、異なるオケージョンにおける相互コミュニケーションとフレキシビリティを確保しました。空間内のこまごまとした動線については、全てこのコリドー空間内に整合しています。そこは単なる動線機能だけでなく、施した統一的な形状が、プレゼンテーションゾーンとしての演出も可能にし、「Cycle & Cycle」の大切な美学を表現する空間を創出しています。このデザインによってコリドー空間は“CycleGallery”となったのです。
ここは、来場者が「Cycleベーカリーライフスペース」に足を踏み入れるファーストスペースとして、その特別な空間様式によって来る者の好奇心をかきたて、独特な空間体験を生み出しています。私たちは全体に暖色系の塗料を採用し、“CycleGallery”全体を包み込むとともに、丸屋根の造形にも溶け込んで、キンベル美術館(米国・テキサス州)のような甘美でクラシックな雰囲気を醸し出させたいと考えました。そこにはCycle & Cycleが長い間収蔵してきた日本人作家の器が静かに陳列され、空間全体と互いに補完し合うことによってその効果を高めています。
「CycleGallery」のアーチ形洞口をくぐると、「Cycleベーカリーライフスペース」のセカンドスペース・・・手作りパンやライフスタイルクッキングなどのワークショップを行う「CycleStudio」になります。
「CycleStudio」は、シェアコミュニケーションを主とする“交流型空間”で、私たちはここを窓に面した場所に配置し、建物全体建築における巨大なガラス面から室内に導入する自然光を最大限に活用するようにしました。ウッドカラーと白を空間のメインカラーとして結び、親和力と温かさを持つ快適な空間を創り出しています。
「生茶寮」は「Cycleベーカリーライフスペース」における神秘的な場所です。ここは「Cycle & Cycle」と、家具を手掛ける「物木所」との共同プランによる茶空間です。室内は、ハンドメイド素材をメインに、本来の素朴な姿に戻ることを目指した、穏やかで厳粛な雰囲気を醸し出す独特の空間となっています。Cycle & Cycleの創業者・笙氏のオフィスは、この「生茶寮」と壁一枚隔てた隣にあります。
もう一つの大きなユーティリティゾーンが「CycleOffice」になります。“一日の始まりを気持ちよく”! 私たちは、従業員の皆さんがオフィスに入る瞬間の気持ちとコンディションが大切だと考えました。その日の作業効率に非常に大きい影響を及ぼすと考えたからです。そこで、オフィスのエントランスに、明るく自由な“パーク”ゾーンを設置しました。コミュニケーション、休憩、瞑想、宴会、フォーラム……など、ここはいかようにも活用できる場所です。従業員の皆さんには、このスペースで、仕事の合間にCycle & Cycleが提唱する多元的なライフスタイルを満喫すると同時に、自らの成長を感じて欲しいと考えています。
「天目里」の全体原建築は、イタリアのDottorGroupが製造した高品質の純コンクリートを使用した構造で、これは骨組だけでなく、素晴らしい表層空間でもあります。私たちは、この原建築にあるコンクリートの柱構造を、今回手掛けた新しい空間の中に残しながら、それぞれのユーティリティゾーン内での有機的な融和を図り、新しく作った部分と原建築を共存させています。空間内にフレキシブルで心地よい状態を表現し、この中で従業員の皆さんがより一層自由且つ楽しい心持ちで日常の仕事に従事していくことができるように、と考えています。(謎舍設計工作室)
「Cycle&Cycle Space (Cycle&Cycle 天目里空間)」
所在地:中国 杭州市 天目里
オープン:2022年6月
空間デザイン:謎舍設計工作室 田少寅 曾煜娴 李然 張青 霍暁芳
ソフトウェアデザイン:曾煜婷
照明:Nouveau Light Studio
設計計画(生茶寮):CycleCycle 物木所
協力:内外装仕上げ Echo全屋 Theli涂料 Rochebobois Akari Kitani
施工:但人装飾
面積:700㎡
Photo:北京鋭景摄影 広松美佐江 宋昱明