宴会場を客室へと生まれ変わらせた温泉宿
景気の減衰とともに宿泊施設の宴会場の需要は減少していたが、2019年以降のCOVID-19によって、その潮流は決定的になった。本プロジェクトは、需要がなくなった宴会場を客室としてリノベーションしバリューアップを目指すものだ。
リニューアルした客室は、宴会場であったことから天井は高く、低層階にあるため眼下には春来川を望む。それらの条件から、圧倒的な開放感を実現するため、床のレベルを外に向かって徐々に高くすることで視線を自然と上に向け、空を眺められるよう誘導することにした。奥に進むとサッシは当然低くなり、それが春来川を見下ろす視線になり新たな感覚を得られる。高低差を生かし、開放性と河床感を演出した。家具はソファと小上がりを同じ高さにすることで、和のくつろぎと洋の快適性を地続きで両立した。客室には源泉を引き込み、存分に外を感じられるビューバスとしている。
「お食事処 おりおり」ではエントランスを外部と見立て、一本通した動線に庇を出す構成とした。通りからは厨房が眺められるライブキッチンとし、料理人とコミュニケーションしながら客席にアプローチするようにした。客席は動線を川の流れに合わせた3つのゾーンに分けている。白い“折りスクリーン”に囲まれたにぎわいを感じられる「LIVE ZONE」。帯を“折り”曲げ、水の溜まりを表現し、落ち着きのある空間を作った「CALM ZONE」。湧出する泡に包まれるような柔らかな空間の「GUSH ZONE」が広がる。川の流れと動線を重ね、コンセプトを一貫することで、このホテルの特徴をより強化した空間構成となった。(杤尾直也/to-ripple)
「湧泉の宿 ゆあむ」
所在地:兵庫県美方郡新温泉町湯1610
オープン:2023年2月15日
設計:to-ripple 杤尾直也
施工:ヤマト
延床面積:5106.27㎡(改修部1044㎡)
客室数:34室(改修部5室)
客席数(レストラン):120席(改修部86席)
Photo:見学友宙
【内外装仕様データ】
〈客室〉
床:複合フローリングt12貼り(ハードメープル、ウォールナット/オネスト・アンド・パートナーズ) 磁気質タイルt10貼り(モデネーゼ/名古屋モザイク工業、アルペス/平田タイル) 畳表(MIGUSA 目積/積水成型工業)
壁:不燃突き板パネル貼り(ハードメープル、ウォールナット/オネスト・アンド・パートナーズ) 和紙クロス貼り(サンゲツ) 塩ビクロス貼り(シンコール) 磁気質タイルt10貼り(モデネーゼ/名古屋モザイク工業) AEP塗装(エッグシェル/ポーターズペイント)
天井:不燃突き板パネル貼り(ウォールナット/オネスト・アンド・パートナーズ) 和紙クロス貼り(サンゲツ) 塩ビクロス貼り(シンコール) SOP
その他:特注家具(seventh-code)
〈レストラン〉
床:コンポジションビニル床タイルt3貼り、塩ビタイルt3貼り(ピエスタ/東リ)
壁:アクリル樹脂装飾仕上げ(ジョリパット/アイカ工業) 和紙クロス貼り(サンゲツ) 塩ビクロス貼り(シンコール) AEP塗装(エッグシェル/ポーターズペイント)
天井:和紙クロス貼り(サンゲツ) 塩ビクロス貼り(シンコール)
その他:特注家具(seventh-code)
杤尾直也/to-ripple
1983年兵庫県生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻(建築・環境デザイン)修了。株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル、オフィス、飲食店など多様な設計を手掛ける。2017年に株式会社to-rippleを設立。「状況のデザイン」をテーマに建築設計、インテリアデザイン、家具・備品のデザイン、ネーミングなど建築の枠を超えたデザインを手がけ、心地よい体験をプロデュースしている。東北大学大学院工学研究科 非常勤講師。