日本初のデザイン学校の歴史を継承し成長してく場所
日本で最初のデザイン学校である専門学校「桑沢デザイン研究所」の新校舎の1期工事。現校舎からほど近い場所にある建物を全面的にリノベーションし、現校舎と併用して運用することで機能の充足を図ることを目的に計画は始まった。1期工事では地上1階から4階までを改修範囲とし、建物の横に長くシンメトリーな形状を生かしたレイアウト計画とし、ユニバーサル化に伴う設備の一新や、効率的な動線計画による開放的な施設を目指した。
1階から3階は、中央にコモンスペースを設け、その両側にイベントスペースや教室など機能を持ったスペースを配置している。イベントスペースは学校と外とを繋げるパブリックでフレキシブルなスペースにしたいという要望を受け、ファサードからの視認性を考慮し明るく開放的な空間とし、エントランス横から直接アプローチできるようになっている。2、3階の教室間の中央に配したコモンスペースをにはベンチとハイテーブルを設け、用途によって使い分けることで生徒同士の繋がりを生むスペースとしても機能し、授業間の隙間時間をより有意義なものにする。4階は面積の半分以上が屋外となっており、代々木競技場と緑豊かな代々木公園を借景として望む。そこをデッキ貼りのテラスとし造作のベンチや大きなテーブルやカウンターを設け、豊かな植栽と共に外との繋がりを意識させながら、都会の中で自然を享受できる場所になればと考えた。
90年代に建てられたこの建物はポストモダンの空気を感じさせる特徴的なコンクリートの外観で、内部は大理石が貼られた壁や板張りの床など古めかしい当時の内装が残っていた。外観との対比を図るため、内装はあくまで数十年先を見据えて、恒久的なニュートラルさを意識し、極力装飾は抑えつつ、渋谷と原宿の中間地点という立地を踏まえて、都会的なエッジを付加するようデザインした。同時に予算の分配も考慮し、空間全体としては元々の躯体を顕にした部分を多くしこれから利用していく過程の中でアップデートできるようにして、ミニマムな仕上げや工夫によって各部屋の機能を最大限に引き正すことを意識した。
また、本校がドイツのバウハウスのデザイン理念を元に創設されたという経緯から、内装のマテリアルも、モダニズムの進歩を押し進めたスチール、ガラス、コンクリートをメインに使用した。手すりやサッシはデッサウで用いられたディテールを現代的にアップデートすることで、リノベーションによる新旧と当時のバウハウスと現代のデザイン学校としての桑沢との新旧の対比を図っている。要所に配したシンプルなアールの手すりや特注のカーテン、ファブリック、既存の大理石をアップサイクルした研ぎ出しの天板などによって、機構や機能による直線による強さを柔和しつつ、人間的な暖かみを空間に持たせ、生徒たちが日々使う中で手や目に触れインスピレーションを喚起することも想定した。スケルトンに塗装をした白い箱の中に多用したニュートラルなグレー(主張のない工業製品的なグレー)は、どこか都会的でありながらも中庸であり、デザインを探求する生徒たちが持つそれぞれの「色」を引き立たせる意味も持っている。
これら多様な要素と空間が、この先もその普遍的な印象は都会の中で学ぶ学生にとってあくまでも自身の学びにフォーカスできるバランスを担う役割を持ち、日本で最初のデザイン学校としての歴史を継承するおおらかな受け皿としてこの先も機能していくことを期待する。(moss.)
「専門学校 桑沢デザイン研究所 新教育施設」
所在地:東京都渋谷区神南1-4-22
開設(リノベーション):2023年3月
設計、デザイン:moss.
協力:電気設備/KENT 空調・給排水設備/GM co.,ltd. 照明設計/Filaments inc. 研ぎ出し、左官/ADDICT 植栽/Tan(Timber Crew) 家具/MARVELOUS CUSTOM 照明器具/BP. L&L 大光電機 DNライティング カーテン/fabricscape サイン計画/BOOTLEG
施工:Studio inc.
建築面積:197.72㎡
延床面積:881.60㎡
Photo:藤井浩司(TOREAL)
【内外装仕様データ】
床:既存床撤去の上スラブ現し コンクリート打設t100金ゴテ仕上げ コンクリートカッター目地 一部防滑シート貼り
壁:既存躯体下地EP塗装ツヤ消し 一部既存躯体現し 一部間仕切り壁/LGS組みPB下地EP塗装ツヤ消し
天井:既存躯体下地EP塗装ツヤ消し 一部既存躯体現し 一部特殊塗装仕上げ
志摩 健/moss.
1987年、神奈川県横須賀市生まれ。2009年、桑沢デザイン研究所スペースデザイン学科卒。2009-2011年、株式会社We+F Vision勤務。2011-2017年、株式会社arflex japan勤務。2017-2019年、株式会社DRAFT勤務。2020年、moss.設立。2022年〜桑沢デザイン研究所非常勤講師。受賞歴/DESIGN AWARD 2021(sanwacompany/winning a prize) Building of the Year 2022(Archdaily/Nominee) Building of the Year 2023(Archdaily/Nominee)