多様な器の背景となるニュートラルな空間
「KOYO BASE」は、岐阜県土岐市のうつわの複合体験施設。倉庫建築のカフェダイニング・ショップ等への転用計画である。土岐市は良質な陶土により発展した日本有数のやきものの産地で、その陶磁器生産量は国内の過半数を占める。土岐市を含む岐阜県南部東濃地方のやきもの「美濃焼」は、時々のニーズに応えて変化してきたため、その様式は多岐にわたり「特徴がないこと」が特徴ともいわれている。本施設を営む光洋陶器もその例に漏れず、機械による自動化と職人の手作業を組み合わせた多品種小ロットの生産体制により、様々なプロユースに応え、寄り添ってきた。
本施設は本社工場内に位置し、生産ラインの見学も行われる。生産者には見慣れた工場の風景も、まちなかからすると非日常的で新鮮に映るものだ。設計にあたり、まず工場本館から独立していて騒音や振動の影響が少なく、改修の現実性も高い出荷棟を計画場所に選んだ(本建物は検査済証のない建築物であったため、国交省のガイドラインに基づき建築基準法適合状況調査のうえ、確認申請の手続きを踏んでいる)。エントランスは、フラットバーの抱き合わせによるフルハイトのスチールサッシとし、工場の大雑把な作りとは対照的に繊細かつ透明で、開かれた表情を作った。2階メインフロアでは、美濃焼のタイルで仕上げたフラットなカウンターをL字に配置することで、お客さんと店員の距離が近くなり、親しみやすい雰囲気に設えた。そして、既存の荷物用リフトのあった南西角にカフェダイニングのバックヤードを集約し、自然を眼下に望める南東角を客席に開放している。さらに、客席東側3スパンの開口を高さのある連続窓に変え、暗がりに光を届けると同時に眺望を開いた。また、頭上への設備類の設置を避けることで垂直方向に広がりを感じさせ、ワークショップルームの間仕切りも透明なフルオープン建具とするなど、水平方向にも視線が抜けるようにした。倉庫建築ならではの大空間を活かしながら、丘陵地が多く、やきものの産地として恵まれた自然環境を、空間全体で享受しようと考えた。これらは空間の開放性を損なわないタイバー等による構造補強や、置換換気による居住域空調といった技術の総合により成立している。
インテリアは、多品種のうつわや多様な人々を受け入れるニュートラルな背景となるよう、やきものの素焼きの色に統一した。土の種類や焼成温度によって素焼きの色も様々であるように、素材や色味に幅を与えて温かみを持たせている。床や天井は仕上げずに工場の趣を残し、すぐ隣でうつわが作られている臨場感を演出。この土地のやきものらしい、中庸で懐の深い場を目指している。(坂本拓也/ATELIER WRITE)
「KOYO BASE」
所在地:岐阜県土岐市久尻1496-5
オープン:2023年1月21日
設計:ATELIER WRITE 坂本拓也 Zelt 柴山修平
構造設計:谷亮介構造設計室
設備設計:ピロティ
グラフィックデザイン:SHEEP DESIGN
施工:ワールド
面積:449.93㎡(計画部分)
Photo:長谷川健太
【内外装仕様データ】
床:コンクリート研磨の上防塵塗装(ユカクリート/大同塗料)
壁:PBt12下地EP
天井:木毛セメント板(既存)
什器:オープンカウンター/腰壁(KYC-02F/寿山) ショップ/島什器天板仕上げ(ファニチャーリノリウム/フォルボ)
家具:カフェダイニング/ソファ張地(Clara 2 0144/kvadrat) チェア(OSSO CHAIR white on ash/MATTIAZZI) チェア(SOLO CHAIR white on ash/MATTIAZZI) チェア(Liceo SO1545/Andreu world) スツール(REVOLVER STOOL LOW/HAY) ハイテーブル・天板、丸テーブル(大)天板(コーリアンBIビスク/デュポン) ワークショップルーム/スツール(CRAFT SQUARE STOOL/THINK OF THINGS)
その他:スポットライト(EFS5487W/遠藤照明)
坂本拓也/ATELIER WRITE
一級建築士。1987年東京生まれ。早稲田大学大学院修了。組織設計事務所の日本設計勤務を経て、スキーマ建築計画にてDESCENTE TOKYOやなか又(前橋デザインプロジェクト)等を担当。2019年ATELIER WRITE設立。素材の特徴を引き出しながら、利用者の体験を意識した空間設計を行う。