狭小住宅を現代的な素材でくじら料理専門店へとコンバージョン
1973年創業のくじら料理専門店の移転計画。白金高輪駅から徒歩数分の住宅街に建つ、築37年の鉄骨造2階建ての狭小住宅を店舗にリノベーションしました。リノベーションに際して、周囲の環境から切り離すために高さ3m超のモルタル仕上げを道路境界沿いに立てました。そして、壁面中央にはかつての店舗から引き継いだ木組の看板を設置しています。その壁面によって隔てられたかつての建物前面の駐車スペースには、入口までのアプローチとテラス席を配しています。また、店内は1階にカウンター席およびキッチン、2階にテーブル席と個室をそれぞれ配置しています。
細長い階段状のアプローチを進み店内に入ると、以前の狭小住宅とは全く異なる空間が広がっています。1階は既存の梁やブレース、ALCスラブは現しとすることで、制約のある店内に空間的な広がりを生み出しています。土間の既存レンガタイル貼りをあえて残したエントランスからは、ブレース越しにコンクリートブロックの上に合板とオーク材を重ねた天板を置いたカウンター席を望むことができます。頭上には天井ブレースに沿わせて設置した照明を配置しています。
階段室の壁面は、遊び心と注意喚起を兼ねてあえてサーモンピンクに塗装しています。屋根の断熱の関係で天井を貼った2階は単調な空間になるのを避けるために、床モルタルとテラゾータイルの切り替えや濃淡グレー色の塗り分け、奥に覗くことができるサーモンピンクやブレースなど複数の要素を散りばめました。個室のフロストガラスの間仕切り越しにはブレースがぼんやりと浮かび上がります。抑制されたグレーの床、壁、天井に朱色の錆止め塗装やオーク材の木質を組み合わせることで、上品さと華やかさを兼ね備えた空間を実現させました。(松葉邦彦/TYRANT)
「くじら料理 うずら」
所在地:東京都港区白金1-12-20
オープン:2023年8月
設計者:TYRANT 松葉邦彦
床面積:55.75㎡
客席数:26席
Photo:広川智基
【内外装仕様データ】
床:ラスカット+モルタル金鏝仕上げの上コンクリート強化材塗布(SKバリヤーコート/エスケー化研) 一部合板t12下地タイル貼り(ZA-0602/リビエラ)
壁:PB12.5下地AEP
天井:躯体現し PBt9.5下地AEP 鉄骨部錆止め塗装
家具・什器:オーク材の上ウレタンクリア塗装
松葉邦彦/TYRANT
1979年東京生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。独学で設計実務を学び、人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトでは芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞など国内外の建築賞を受賞し注目を集める。「浮かせる」「歪ませる」「尖らせる」といった設計手法で新たな価値を生み出す建築の実現を目指しており、その思想・作品は現代アートに通ずるものがある。アートコレクターとして「EUKARYOTE」(2018年)、「MARUEIDO JAPAN」(2023年)で自身のコレクションを展示する「MATSUBA COLLECTION」を開催。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。