鮨屋の象徴であるカウンターの新しい在り方を具現化
鮨の起源は『熟鮓(なれずし)』という発酵食品で1200年もの歴史がある。その後、即製化が進み、文献的に『握り寿司』は1820年頃初出。その頃は屋台が流行るなど立ち食いが主流だったこともあり、衛生面への考慮で殺菌作用のあるヒノキがカウンターの材料に多く用いられていた。そういった理由や背景をもちながら、美しいヒノキのカウンターが鮨屋のアイコンとなっていった。ただ、その実際の価値と美化されたイメージにギャップを感じる。盲目的にヒノキを使うくらいなら、現代の在り方にアップデートしたつくりを目指したいと思った。
まず、路地裏を覗き込むとお鮨の屋台があるような、見つけ出した感のあるシーンをつくった。洗い出しの床仕上げや奥を見通せない幅が路地を表現。奥にあるカウンターは機械で製材するのではなく、人の手で熱を込めながら、人にフィットするように。適材適所で材を選定し、脚の一部には彫刻家の作品が再利用されている。そこには100%リサイクルガラスで焼成された50mm厚の付け台が鎮座する。置かれた鮨は、ガラス底に映る自身の影との距離が生まれ、鮨が浮いているように見える。その様子は写真に撮りたくなるし、SNSに限らず誰かに伝えたくなるはずだ。『めぐり ひとつ』の鮨は、鮨屋然とした鮨屋で撮った、その他大勢の鮨ではなく、パーソナリティをまとった鮨になる。
モノやコトの在り方は、いつどのように変わるか誰にもわからない。本質的な価値を見極め、残すために変容させていくことは必要である。常に進化を目指す腕利きの大将と、他にはない環境が、新たな鮨屋の歴史の一部になると信じている。(家所亮二建築設計事務所)
「鮨めぐり ひとつ」
所在地:東京都中央区銀座4-12-2 橋本ビル1階
オープン:2024年1月5日
設計:家所亮二建築設計事務所
床面積:30㎡
客席数:7席
Photo:Stirling Elmendorf
【内外装仕様データ】
床:モルタル洗い出し仕上げ
壁・天井:特殊塗装仕上げ(CIRCUS)
家具・什器:造作カウンター(アートボイス) 厨房側・杉材 客席側・栃材(脚部の一部に彫刻作品を加工して再利用) シンク隠し(高野槙、彫刻作品を加工して再利用) エントランスドア/引き手・カリン 押し板 タモ玉杢
その他:付け台/廃ブラウン管リサイクルガラス(スタジオリライト) サイン/廃蛍光灯リサイクルガラス+ブラスト加工黒着色
家所亮二/家所亮二建築設計事務所
1977年、横浜生まれ。2012年、HOUSE PLACE ARCHITECTURE association 設立。2014年、株式会社家所亮二建築設計事務所に改組。IDA DESIGN AWARDS 2016 GOLD、A’DESIGN AWARD 2017 GOLD、AMERICAN ARCHITECTURE PRIZE 2017 WINNER、BAMBOO AWARD 2017 GOLD、FRAME AWARDS 2018 WINNER、iF DESIGN AWARD 2018 WINNER。