- ダイニングレストラン
- 東京
目黒区池尻大橋に建つ巨大なジャンクションの近く、マンションに囲まれた静かな敷地にある日本料理店。自ら調理場で腕を振るう30代の主人が我々に求めたのは、年配のお客様に日常的に使っていただけるような、静かで居心地の良いお店でした。ビルの1階に位置する店舗区画の面積は約10坪。天井高は低く、空間として有効な躯体床から大梁下までの空間は2220㎜。そこから厨房の配管スペースとして350㎜を床上げすると、残りは僅か1870㎜しか残らず、平面・立面共に狭い空間でした。そこに9席のカウンターと4席のテーブルを2つ、合計17席を配置しています。
この狭い空間を欠点と捉えず、人と人、人と物の距離が近いことを魅力と感じられるような場所を目指して設計を進めました。厨房とカウンター席の天井は端部側面の鋭角な処理、および下面と側面の色の塗り分けによって、紙一枚が浮いているような表現とし、圧迫感を軽減させています。テーブル席の天井は壁へ向かって弓なりに連続することでこの区画を柔らかく包み込み、雪でつくられた「かまくら」のような親密な場所を創出しています。また、人と物との関係を優しくし、距離感を曖昧にするために平面上に現れる多くの角は丸めています。仕上げ材は質感が自然な風合いを持つものから選定することで、身体感覚に近い雰囲気を醸成。器や盛り付けにもこだった色どり鮮やかで繊細な料理を引き立つように、主素材を左官、磁器タイル、木の3種に絞り、それらの色味を調和させ、仕上げ材が主張することを抑えています。その他、屋外からも玄関扉のガラス窓越しに覗き見ることができる、カウンターの曲がり角に、叩き出して仕上げられた光沢のある金属支柱を設け、金属を削り出した鉤(かぎ)を取り付けました。鉤に掛けられた一輪挿しには毎日植物が生け変えられ、空間に季節感や艶めかしい生命感を与えています。この設えは茶室の床柱と花釘、そこに掛けられた一輪挿しの生け花を連想させ、空間全体に日本的な雰囲気を創り出しています。開店後に訪れた際、主人が鮮やかな所作で厨房内を立ち回る様子をカウンター越しに眺めていると、能舞台を鑑賞しているような気分になったことを覚えています。(小川 裕之/小川都市建築設計事務所)
ひとしずく
所在地:東京都目黒区大橋1-1-8 エバーヒルズ池尻大橋1階オープン:2017年7月6日
床面積:34㎡
客席数:17席
Photo:大瀧 格
- Designer:
-
小川裕之 HOAP ○プロフィールへ