BAMBOO TALK vol.1

Laurent Vernhes氏(Tablet CEO) ×
寶田陵氏(the range design INC. 代表)

tai_img01

ホテルステイにこだわるトラベラーに世界中から厳選したホテル約2000軒を紹介する人気の宿泊予約サイト「Tablet Hotels」。そのFounder兼CEOである Laurent Vernhes氏が来日した。そこで、国内外で様々なホテルを手掛け、ホテルを泊まり歩くことを趣味と言い切るthe range design寶田陵氏との対談を企画。自他共に認めるホテルマニアの二人が今注目するホテルや、人々を惹き付けるホテルづくりのポイント、またインバウンドで賑わう東京のホテルへの注文など、寶田氏がLaurent氏に質問する形式で語り合ってもらった。

“日本らしさ”よりも日本人の目でセレクトしたものを見てみたい

重視しているのはホテルの“テイスト”

寶田:僕は旅行の計画を立てるとき、まずTablet Hotelsのサイトを開くんです。新しくて素敵なホテルがたくさん紹介されていますが、どういった基準でセレクトされているのですか?

Laurent:最も重視しているのはそのホテルが持つ“テイスト”です。誰もがすぐにイメージするようなホテルではない、個性あるホテルを意識して集めています。例えば、高級ホテルと言ってもそれぞれ個性を持っているわけですが、東京では「CLASKA」(目黒)のオープンはセンセーショナルでしたね。初めて訪れたとき、当時まだTabletは日本語サイトを持っていなかったのですが、レセプションの方がTabletのことを知ってくれていたのには驚かされました。
しかしだからと言って、自分の好みだけでセレクトしているわけではありません。世界中に信頼できる友人たちがいるので、自分で判断できないときは、彼らの意見を参考にして決めています。ですから中には、彼らの好みでも自分には合わないといったホテルももちろん出てきます。

tai_img02

寶田:実際に宿泊して決めるのですか?

Laurent:本当はすべてのホテルに泊まりたいのですが、なかなかそうもいきません。ただそうした場合も、そのホテルに宿泊経験のある信頼すべき友人から話を聞くことにしています。

寶田:僕は定期的にTabletをチェックさせてもらっているのですが、新しいホテルが登録されていて、良さそうだなと思うとすぐ行くことにしています(笑)。

Laurent:本当に!?それはうれしいですね。

寶田:初めてホテルのデザインを手掛けた15年くらい前から、ホテルに泊まることが僕の趣味になりました。これは(※と言ってスケッチを取り出す寶田さん)これまで宿泊したホテルの客室スケッチです。このスケッチブックに載っているのは、ほとんどTabletに加盟しているホテルです。勉強のためでもあるんですが、趣味でもあるんです。これまで世界約50都市、200以上のデザインホテルに泊まりましたが、そのうち客室をスケッチしたのは半分ぐらいですね。

Laurent:わお!これは上海の「The PuLi」ですね。私も好きなホテルです。

寶田:細かくスケッチしている客室は、自分自身すごくテンションが上がったときなんです。「The PuLi」は5時間ぐらいかけて描きました。僕のベストホテルです。ここを超えるホテルは僕の中ではまだ出てこないですね。

Laurent:上海だと「Swatch Art Peace Hotel」もお薦めですよ。感動します。スイートオンリーで、すごく高いですが(笑)。

ロビーに入った瞬間に、良いホテルかどうかが分かるようになる

寶田:最近訪れて良かったホテルを教えてください。

Laurent:6月に家族で地中海のコルシカ島に行ってきました。海に囲まれ山も近く、文明から孤立したようなとても美しい島です。そこに、良いなと思ったホテルがありました。「Hotel Dominique Colonna」というホテルで、そこに3泊しました。まだTabletには入っていませんが、ぜひ入れたいと思っています。今年訪れたホテルでは、間違いなくナンバーワンのホテルです。

寶田:施設、ロケーションなど、ホテルを評価するポイントを絞るのは難しいと思いますが、ローランさんが「Hotel Dominique Colonna」を良いと感じたポイントはどこですか?

Laurent:一番は、周辺の自然に溶け込んでいるようなホテルの佇まいです。山の渓谷に沿ったホテルで、日本の温泉旅館のような風情がありました。次は、徹底的に考えられたレイアウトです。石や木、葉などの自然素材を上手に使い、部屋の中にいても周囲の自然と繋がっているようにデザインされているのが素晴らしかったですね。
そして、レストランのテーブルに並んだアイテムも注意深く選ばれたものばかりでした。例えば、近くの農場で作られたチーズ。コルシカのチーズはとても美味しいんです。また毎日10種類のワインがグラスで楽しめ、生きていることの喜びを感じました。
オーナーが自分の好きなものだけをセレクトして、ゲストに喜んでもらおうという気持ちが伝わってくるホテルでした。

tai_img03

寶田:そのホテルは、どうやって探したのですか?

Laurent:良いホテルにはそう簡単には出会えないものです。5回6回と失敗して、今回のような素敵なホテルにやっと出会うことができる。失敗をしないと良いホテルは見つからないですね。

寶田:たしかにその通りですね。写真を見て、良さそうだなと思って行ってみると実際はそうでもないということもよくあります。

Laurent:この仕事を始めてから何万枚ものホテルの写真を見てきたので、写真だけでもすいぶん分かるようになってきました。あ、これはもしかしたらカメラマンの腕が良いだけかもしれない、とか(笑)。

寶田:最近それを見極めるために、実際に泊まった人たちの評価スコアや口コミを参考にするようにしています。Tabletの採点方式だと、17点台はあまり……。19点台はやはり良いですね。16点以下のホテルもあるんですか?

Laurent:良く見ていただいているんですね。ありがとうございます。
16点以下というホテルはそれほど多くないですね。以前は15点以下がボーダーラインだったのですが、現在は16点以下のホテルも改めてチェックし直すようにしています。ゲストは、Tabletがセレクトしたのだから良いホテルだろうと信じて予約してくれるのに、ホテルの雰囲気やサービスと、ゲストの要求との間にギャップが生じてしまうことがあります。例えば、毎晩のようにパーティーが繰り広げられるホテルなど。賑やかな雰囲気が好きなゲストはこうしたホテルに高得点をつけますが、くつろぎを求めるゲストの評価は当然ながら低くなります。

寶田:数あるホテル予約サイトの中でも、Tabletだけは、華やか、賑やか、最先端、話題性ありなど、ホテルの雰囲気の評価基準が書いてありますね。賑やかなホテルだと紹介されているのに、そこに泊まってうるさいと書き込まれてしまうのは、ホテルが可哀想な気もします。

Laurent:例えばサンフランシスコのあるホテルには「パーティーがあるから眠れませんよ」というコメントを記載しているのですが、どうしても「うるさくて眠れなかった」とコメントが書かれてしまう。事前にどういうホテルなのかをゲストに確実に知らせるのは、私たちの重要な仕事だと思っています。
寶田さんが最近泊まって良かったホテルはどこですか?

tai_img04

寶田:チューリッヒの「B2 Boutique Hotel + Spa」ですね。ビール工場をコンバージョンしたホテルで、屋上と地下にスパがあります。建物内には工場の跡が一部残っていて、フロントマンがまずそこに案内してくれます。ラウンジから外を見ると煙突などが見えて、でも内部は図書館のようなインテリアにビール瓶のシャンデリア、そのギャップがいい違和感を生んでいました。屋上スパからは遠景にチューリッヒの素晴らしい景色が見えて、見下ろすとグーグルの社屋があり、社員があくせく働いているのを上から眺めながら、こっちはスパでゆっくり(笑)。そこから地下に直通のエレベーターがあって、地下にはかつて貯蔵庫だったらしき場所にまた巨大な屋内スパが広がっています。こんなホテルは、地震の多い日本では構造的な難しさがあり、やるにしても非現実的なコストが掛かります。

Laurent:Tabletに加盟しているホテルですね。スイスやオーストリアなどの中欧は、古い建物のコンバージョンや、内部に入れば入るほど驚きが待っているようなホテルがとても多い。同じチューリッヒにある「The Dolder Grand」が、そのパイオニアのようなホテルです。ここはノーマン・フォスターによる設計です。
Tabletを始めた頃、世界中の大都市は大体訪れて、毎日20~30軒くらいのホテルを見て回りました。数を重ねていくと、部屋を見なくてもロビーに入った瞬間、ここは違うなと感じ取れるようになりますね。

寶田:僕は先日2泊4日の視察でニューヨークに行き、一日半の滞在で約40軒のホテルを見て回りました。ローランさんと同じように、入った瞬間にここは良い、ここは違うなと感じるようになりました。入ってまず驚きを覚えたら、それはもうホテルの勝ちだと思います。滞在中もその後も、最初の印象がそのホテルの記憶として残るものですね。

Laurent:それはすごい(笑)。以前ベルリンのホテルで、外観は期待できなかったのですが、部屋はとても素敵だったので契約を結んだのですが、人気が上がらず、結局削除したというケースもありました。これは例外かもしれませんが、第一印象はやはり大事だと思います。

“日本らしさ”とはセンスの良さと頭の良さ

寶田:ローランさんがホテルを手掛ける建築家に対して期待することはありますか?

Laurent:やはり、私たちをわくわくさせて欲しいです。

寶田:東京はこれだけ最先端の都市なのに、海外のホテルの方が何だか魅力的だなと感じてしまいます。今の東京のホテルは、ローランさんにどう映っていますか?

Laurent:私も東京は何かが欠けていると思います。東京はとても裕福な大都市なのに、Tabletに加入してくれているホテルはたったの18軒。しかもその半分は外資系のラグジュアリーホテル。街を歩く人はみなファッショナブルで、面白い建物や素晴らしい建築家もたくさんいるのに、これは非常に不思議なことです。数で言えば50軒はあってもいいと思う。

寶田:日本はホテルに経済効率を求め過ぎなのでしょうか?特に感じるのは、小さくて魅力的なホテルがない。海外にはこうしたホテルがたくさんありますよね。東京では、例えば40〜50室のホテルだと経営的に成り立たせるのが難しいのでしょうね。

tai_img05

Laurent:確かにそうですね。ホテルは稼働産業なので、50室はないと経営は難しいだろうと思います。でも、それにしても日本はさまざまな分野において優れたデザインがたくさんあるのに、ホテルだけは少ないですよね。

寶田:海外ではデザイナーが主導してホテルづくりを行っているのでしょうか?

Laurent:私が思うに、欧米の旅行者はデザインに対しても期待値が高い。例えば、ニューヨークでは今、没個性のホテルはもう作れないという風潮がある。それだけゲストの目が肥えている。もしかしたら、日本人の旅行者自身がまだそうした目を持っていないのかもしれないですね。今回の寶田さんとの対談を通して私も改めて気づかされました。

寶田:僕が設計した「新宿グランベルホテル」(Tabletに加盟)は、海外からのゲストがとても多く、ルーフトップに作ったバー&レストランでは多くの方々が利用して楽しんでくれていますが、日本人は宿泊しているゲストよりも外来のゲストが多いように感じます。

Laurent:日本のゲストは、ホテルに利便性や快適性を求めている人が多いということですか?

寶田:そうだと思います。まず口コミに書かれるのが「駅から遠い」とか「フロントの対応」とか(笑)。日本人の多くがイメージするのは、フロントにスーツのスタッフがピシッと立っているというホテル。だから少しでも砕けた雰囲気とかカジュアルな対応だと「フロントの感じが悪い」とか書かれてしまう。日本人は、ホテルを楽しむ前にそういうところをとても気にするんです。

Laurent:センスの良さは日本の好きなところですが、なぜホテルを楽しもうとしないのか、不思議ですね。

寶田:僕が今、力を入れているのは20㎡以下のビジネスホテルです。ただ寝るだけでなく、何か“ワクワク感”や“楽しみ”を持たせたいと思っています。そういうホテルを、日本に増やしていきたいんです。

Laurent:それは面白いですね。海外のゲストは、ビジネスホテルでも寝る以上のものを期待します。ホテル業界はファッション業界に近いと思うんです。

寶田:もう一つお聞きしたいのですが、僕は外資系の同じチェーンホテルでも、海外の方がより楽しく感じ、日本では大人しい感じがします。例えば「Andaz」は、ニューヨークやサンディエゴの方が、日本に比べて楽しく華やかな雰囲気を受けました。でも最近は、なるほどこれが海外から見た日本らしい「Andaz」なんだなと思うようになってきました。ローランさんは、どのように感じますか?

Laurent:都市によって雰囲気が異なるというのは、むしろ良いことなのではないでしょうか。ブランドによると思いますが、例えばリッツカールトンはどこも同じですし、ペニンシュラはどこも違います。

tai_img06

寶田:海外のゲストは日本のホテルに日本らしさを求めているということでしょうか?

Laurent:うーん、日本らしさって何ですかね?

寶田:そう言われると、、、(笑)。僕も模索中です。

Laurent:私には、日本らしさというよりも、日本人が世界中からセレクトした良いものを見てみたい、という気持ちがあります。日本人はキュレーションが上手ですよね。良いものを見つける審美眼を持っていると思います。フランス人も上手ですが、日本人の方が上ですね。音楽やファッションのように、そのキュレーション能力を踏襲したらもっとすごいホテルができると思います。

寶田:ここ数年、日本のホテルづくりでは、日本の良さをもっと見直そうという潮流があります。例えば、和のテイストを取り入れる、といった。でも僕はそれを、ホテルではなくて旅館で突き詰めたいと考えています。ホテルは、和とは違う、もっと日本らしさでワクワクしてもらえるようなものを作りたい。

Laurent:日本の住宅はとても面白いですよね。すごくかっこいいですが、私はそれを日本的とも思わないですし、日本的だからかっこいいとも思いません。私は、決まり切ったスタイルではなく、頭の良さやセンスの良さみたいなものが日本らしさなんだと思います。

寶田:なるほど!面白いですね。今、京都のホテルを手掛けている最中なのですが、京都=和でやらなければいけないのかどうなのか、テイストの扱いにとても悩んでいたところなんですが、何かヒントをいただけたような気がします。

Laurent:過去、パリでも似たようなことがありました。アメリカ人がパリに求めているのは19世紀のスタイルだという先入観から、そういう雰囲気のホテルがどんどん増えましたが、当時のパリのホテル業界は上手くいっていませんでした。パリもここ何年かでようやく“楽しいものを作ればいいんだ”と気づいたらしく、今は個性豊かになってきています。

Tabletはホテルのショールーム

寶田:ローランさんは素敵なホテルをセレクトして、世界中の人々に紹介しているホテルのキュレーターでもあるわけですが、日本人はホテルを楽しむことがまだ出来ていないので、Tabletを通して、ホテルの楽しみ方をどんどん広めていっていただきたいと思います。日本のホテルの魅力の引き出してもらうためにも、自分はこうやってホテルを楽しんでいるよ、ということをブログなどで発信してもらえたらうれしいですね。

tai_img07

Laurent:欧米の旅行者も以前は、ホテルは寝るだけでいろいろな体験はホテルの外で、という考え方でしたが、今では、ホテルの中でも楽しいことを体験したいよねというふうに変化してきました。そもそも、寝るだけじゃない何かを体験させてくれるホテルをセレクトしたサービスを提供したいというところから、私はTabletをスタートさせたのです。
もしかしたら今Tabletは、ホテルのショールームとして成り立っているのではと感じています。ホテルで寝る以外の楽しい経験を求めている人は増えています。一方で、寝るだけを求めている人が存在しているのも事実です。後者を変えるのは非常に難しいですが、ホテルは寝るだけだと思い込んでいる人たちに、別の楽しみもあるんだよということを発信していくつもりです。
英語バージョンだけなのですが、最近アプリをリリースしました。現段階では予約ができるだけなのですが、次のバージョンではTabletに加盟していないホテルのレポートを掲載できるようにして、それらのホテルが加盟されるとTabletの公式キュレーターになれるという仕組みを作っていく予定です。ホテルツーリストの生の声を取り入れていきたいと考えています。

寶田:僕も参加したいですね。

Laurent:Tabletを信頼してくださるゲストの声はとても大事です。寶田さんもぜひ公式キュレーターになってください。

(2016年初秋、東京・京橋にて)